「僕の両親は、中学に入った頃に交通事故で亡くなったんです。
それで母方の祖父母の家に引き取られたんですが……
その時はまだ親の死に向き合うことすら出来なくて、何かあると二人に当たってばかりいました」
知らなかった。
おまわりさんの両親が交通事故で亡くなってたなんて……。
おまわりさんの瞳を見ていると、私の胸は今まで感じたことのない痛みで締めつけられた。
「本当は感謝してるのに、素直になれなくて……言葉じゃ全然伝えられなかったんです。だから、母の日に祖母にカーネーションを渡そうと思ったんです」
おまわりさんの言葉の後、少しの沈黙が流れた。
そして、その沈黙を遮るように、お母さんが静かに口を開いた。
「宮本さんは大変な思いをしてきたのね……」
おまわりさんはお母さんの言葉に目を細め、小さく首を横に振った。
「いいえ、大変な思いをしたのは祖父母でした。
子どもを亡くしたうえに、こんな生意気な孫を育ててくれたんですから……」
「今もお婆さんたちは元気なの?」
「祖父は5年前、祖母は2年前に他界しました。
それで僕は今、一人でその祖父母の家に住んでいます」
「そう……。
きっとお婆さんたちは今頃、警察官になった宮本さんを嬉しく思っているわね」
「そうだと良いんですが……」
照れたようにはにかんだ笑顔を見せたおまわりさん。
きっとその瞳の奥には、おまわりさんの家族がいるんだね。
だから古くなった家をあんなに大切に手入れして暮らしてる。

