マンションの門を抜ける。

もう日も暮れてきたようだ。ドーム内の空が、オレンジ色に輝き始めていた。

トヲルは後ろを振り返り、出てきたばかりのマンションを見上げた。

先程の子供達のことが、まだ気に掛かっていたのだ。後ろ髪を引かれる思いである。

それを断ち切るかのように、トヲルは首を一振りすると、塀に寄り掛かって一服しているコウヅキに近付いた。

「あのマダムっていう人、一体何者?何かお金持ちみたいだけど、働いている様子が全くなさそうだったし」

「…ヒトには、な」

そう言うとコウヅキは、ゆっくりと駅の方に向かって歩き始めた。

「知らなくていい世界ってぇもんが、あるんだぜ」

「な、何それ?」

意味深気味に答えたコウヅキに、勿論トヲルは納得できない。

だがコウヅキはそれ以上何も答えず、ただ煙草を銜えながら、トヲルの前を歩いているだけだった。

その背中には、「これ以上話し掛けるな」オーラも出ているような気がした。

トヲルは仕方なく、「他人のプライベートに、これ以上足を踏み入れるのは良くないから」と無理矢理納得させ、諦めることにしたのである。