琥珀が大勢の男に囲まれたあの事件から、しばらく経った。首謀者だった和田とは、挨拶程度には話すようになったものの、被害者だった金髪女とは、何故かろくに言葉を交わさない日々が続く。オレ達の教室に押しかけてくることがなくなったし、授業が終わったら、さっさと帰宅しているらしいのだ。

 在に聞いたら、「予備校にでも通ってるとか?」と言われた。自慢じゃないが、予備校よりも効率良く教えてくれるヤツより優先すべき用事は何なのかと思って、琥珀の妹に電話で尋ねてみる。すると、少しためらった後で、答えが返ってきた。



「……お姉ちゃん、最近アルバイトを始めたみたいで。でも、勉強はちゃんとやってますよ。きっと、安海さん達に迷惑をかけないようにとか、早くお金を家に入れようとか、自分なりに考えてるんだと思います。」



 まさか、バイトを始めていたなんて。問い詰めてやろうかとも思ったが、何か事情があるのかもしれないし、ひとまず思いとどまった。代わりに、琥珀が働いているというカフェを妹に教えてもらい、在と二人でこっそり見に行くことにした。

 ――金髪女が働くにしては不釣り合いな、落ち着いた外観の店は、“コルトナ”という名前だった。店主の思い出の地なのだろうかという推測はさておき、友人と共に、少し離れた所から店内を眺めてみる。すると、白いシャツに黒いエプロン姿の琥珀が、せかせかと動き回っていた。

 注文を取ったり、料理を運んだりと、なかなか手際が良い。客と言葉を交わすこともあるが、相手を不快にさせることはなく、笑顔にさせている。店から出てくる客の中には、琥珀に手を振って、「また来るね」なんて言っているヤツも居たのだった。