待ち合わせは7時・・・ということは・・・今日は4時間。

メモを見る、葵はいつも、頭の中で会える時間を計算する。


12時までには帰宅する約束は結婚来破ったことがないと自慢めいて言う真崎に


「まるで、シンデレラね・・・」

呆れた口調でなじったこともあったが、

真崎は「ルールを守ることが、関係を長続きするコツだからね・・・」

といっこうに動じる気配はない。


真崎のこのクールさが頼もしくもあり、しかし葵には物足りないところでもある。



サンタフェというのは、二人の行きつけのカフェである。


50過ぎで、脱サラ。


妻と一緒に店を始めたというマスターは、もう70歳を少し過ぎている。


昔、銀行員をしていたという過去は全く想像も出来ないほど洒脱で柔らかい人柄である。


店は静かな佇まいで、いつも小さな音量で静かなジャズが流れている。



白いものの混じった髭を蓄えたマスターは、

二人の関係も薄々感じてはいるはずなのに、深く立ち入ってはこない。



ただ、最近になって、葵と真崎の微妙なすれ違いをそれとなく感じているのか、さりげなく間に入って取り持とうとしてくれるのがわかる。



葵の時計は既に7時半を少し回っていた。


メモを渡された時の葵はいつもより増して、段取りよく、仕事をこなす。


定時に退社するためだ。


今日も、テキパキと仕事は片づいていった。



定時5分前

「悪いけど、これ作り直しね」


自分のミスでの打ち直しなのに、


部長は、当然のように仕事を押しつけてくる。


少しムッとしながらも葵は書類を引き受けた。


30分の残業。


会える時間が30分少なくなった。


真崎は、出先から直接店に向かっている予定である。