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「タイムマシンが欲しい」

七月の一週目。暑さにうだった教室の隅で芽衣が唸った。ぐったりと上体を机に預け、期末考査の日程が書かれたプリントを睨むが、幾度睨んでみても、文字がなくなることはなかった。

「タイムマシンで何すんだよ?」

ダレた芽衣を、赤いリボンを付けて可愛子ぶっている猫の絵が描かれたクリアうちわで扇いでやりながら、壱弥が呆れ気味に訊く。芽衣は口を開くのも億劫なのか、無言だった。
横から大きな溜め息が吐き出される。壱弥が振り返ると、すぐ後ろに真鍋が立っていた。

「お前ら、あほな事言ってねぇで勉強しろ。なんの為の自習だと思ってんだ」

「テスト勉強に備える自習れすぅー……」

殆ど呂律が回っていない。聞取り難さに真鍋の眉間の皺が増えた。

「壱弥、このアホは放っておいてお前は勉強しとけ。お前、それなりに頭いいんだし」

「あー。けど俺、勉強好きじゃねーしな。それに、芽衣が赤とらないように教えないと」

「馬鹿か。んなの、やるだけ無駄だろうが!見ろこのやる気のなさを!」

びしりと指差され、芽衣がぷいとそっぽを向いた。

「けっ。真鍋くんみたいに頭いー人にわたしの気持ちはわかんないよ。どっか行けガリ勉」

「華原ァ!てめ、殴るぞ」

「まーまーまー落ち着けって。暑いのはみんな一緒だから、まず落ち着けって」

宥める壱弥を一瞥し、真鍋はチッと舌打ちすると、空いている手近な椅子を引いてどかっと芽衣の正面に腰を下ろした。
芽衣が心底嫌そうな顔で真鍋を見上げる。瞬間、火花が散り、けれどすぐ真鍋が引いた。

「ったく可愛くねぇ。まじ可愛くねぇこの女!オラッ。教えてやっから何がわかんねぇのか言え。自己申告しろ!」

「マジか!あのね、数学と地理と世界史とね、古典と英語。あと化学」

勢い良く起き上がった芽衣に、意外だと言うように真鍋の声が続いた。