それでも、良くも悪くも、薄い繋がりが当たり前の大学生同士の関係。

だからその分、あまり他人に興味がない。


そのおかげで、あまり深入りされなくて済むから助かる。



俺は、そんなヤツらに適当な笑顔ではぐらかし、サクラを促して、さっさと後ろの席に座った。



「なぁんだ。カイも普通の男のコだったんだねぇ」

「え?」


席に着くなり、サクラがおもむろに呟く。



「カイにも友達いるんだ」


そういえば、サクラが、自分以外と会話を交わす、いつもの俺を見るのは、初めてかもしれない。



「へ?俺、いなさそうに見える?」

「見える見える!だってカイ、変わってるもん」


サクラに言われたくないと言い返そうとしたけれど、今サクラと一緒にいること自体、

もう普通じゃないんだろうと思って、俺は何も言わないことにした。



講義中サクラは、始終嬉しそうな顔をして、前で動くオッサンを見つめていた。


いつもの俺なら、すぐに机に突っ伏しているところだが、

なんとなく、サクラにいいところを見せたくて、久しぶりにノートを広げて、手を動かした。



隣が気になって、たまにさり気なく見やると、

サクラは、オッサンの話をあたかも理解しているように、小刻みに首を頷かせていたりする。



……不思議だ。


サクラは、あのオッサンが黒板に書く数式が、何を言っているのかわかっているのだろうか?

だとしたら、サクラは一体、何者なんだろう?



小さな疑問が、次から次へと連鎖するように生まれてくる。


だけど、どこまでも広がる疑問を、俺は何ひとつ口にすることはできなかった。

広がり過ぎる疑問に、なんだか恐さを感じてしまったから。