「じゃあ、今度はアナタの名前も決めなきゃね。」

「お生憎様。人間の世界では、生まれた時に、みんな名前を持つんだよ」


お前のペースに巻き込まれてばかりの俺じゃないんだ、という意も込めて、

俺は、サクラのおかしな言葉に、切り返してやった。



だけど……

“ヘッ?”とでも言うような呆気に取られた顔で、俺を見返したサクラに、俺はたじろいだ。



まさか、名前を付けてやるなんて、本気で言っていたわけじゃないだろうな?



「そっかそっか。人間はいいね」


サクラは、一瞬崩れかけた笑みを、すぐさま元に戻し、自分は人魚だという主張を、まだ続ける。


コイツは、一体いつまで、こんなバカバカしい猿芝居を続ける気なのだろうか……?



ま、どうせ聞いたって、人魚だって言い張るんだろうから、もう聞いたりしないけど。



「俺の名前は海斗」

「……海斗、か。よろしく海斗!}



……?

あれ、なんか今……


サクラの返答のテンポが、かすかに遅れたような気がして、俺の胸が揺れる。



ほんの一瞬だけ、サクラの切なげな表情を見た気がした。


もっとも、本当に一瞬のことだったから、ただの勘違いなのかもしれないけれど……