「はぁ……わかったよ。決めたやる」

「やった!」


これ以上、この無意味な押し問答を繰り返しても、永遠にゴールは見えてこない。



そう感じた俺は、少しだけ……

いや、実際のところはかなり悔しいが、この女に流されることにしてやった。



……しかし、それにしても、名前を付けるのって、案外難しいものだ。


適当に付けてやろうと思ったのに、いざとなると何も出てこない。

自分の周りにいる女子達の、ありきたりな名前が、次々と浮かんでくるだけだった。



ふと、俺の名前を付けた、シワだらけの、親父の顔を思い出す。

親父も、こんな風に悩んだのだろうか。


地面と睨み合って、考えている俺の隣から、女の期待に満ちた、痛いくらいの視線が刺さる。



何か、手掛かりはないものかと、辺りを見回せば、

この女と初めて出逢った、あの桜の木が飛び込んできた。



「桜……」

「サクラ!?いいよ、それ!」


何の気なしに出た呟きに、女は、思いがけない反応を示す。



まぁ……

コイツが気に入ったのなら、それでいいか。


……サクラ、か――