「――何してるの?」


「ねぇ、何してるの?」


「ねぇってば――」



――……!?


夜空だった目の前が、突然変わる。

街中で嫌というほど見てきた“ヒトのカオ”が現れる。



「こんなところで寝てたら風邪ひくよ?」


ぼんやりとした思考が、クリアになっていく。

眼前の男の顔と声が、ようやく重なる。



「何してるの?」

「……別に」


それは気付けば、今の私になった時から、初めて発する言葉だった。


初めて聞いたはずの声だけれど、違和感なく自分の声だと認識できた。

何も覚えてなくとも、やっぱり、拭いきれない感覚は消せないのだろう。



「俺んち、すぐそこなんだけどさ。よかったら休んできなよ」


男は、公園からよく見える建物を、指差して笑う。



なんでもいい。

ちょうどいい。



「――うん」


漂っていけばいい。

流れのままに。


この身など、どうなったって構わないのだから。



この感覚もまた、本能に近い感覚なのだろう。



それはカイと出逢う少し前の話。


始まりと呼ぶものなのかもわからない、

アイツとの奇妙な出遭いだった――