リュウはウエイトレスに向かって手を上げた。
「すみませーん」
 マキオの心の中で期待と緊張が同居した。
「はぁい」
 マダムが応えた。
「マスターじゃねぇよ! あのコだよ、あ・の・コ」
 同じくマキオも心の中でツッコんだ。
「失礼ね、もう」
 マキオの心の中の緊張が安堵に変わった。
「や、やめとこうよ。仕事中に迷惑だよ」
「そうか? それもそうだな」
(呼ばないのかよ!)
「すみませーん」
(呼ぶのかよ!)
 マキオの心の中を緊張が占拠した。
「はーい」
 さっきの返事とは違い、可愛らしい声が返ってきた。ウエイトレスはすぐに2人のテーブルに駆け寄ってきた。
「ご注文ですか?」
「彼女、見ない顔だねぇ」
「まだ入ったばかりなもので」
「そうなんだ? どうりで。名前は?」
 ウエイトレスは困惑の表情を見せた。すかさず口を挟むマキオ。
「ほ、ほら。困ってるじゃないか」
「何だよ、紳士ぶっちゃって。ごめんね」
(聞かないのかよ!)
「で、名前は?」
(聞くのかよ!)
 さっきの表情とは裏腹に、ウエイトレスは明るく答えてくれた。
「槙村です。槙村鈴《まきむらりん》です。よろしくお願いします」