「お前が野球をやめられるわけがない!」

なんて、
無責任な言葉を僕にかけたのは原田、高校の野球部でいっしょだった二個上の先輩だ。

特に親しかったわけじゃない。
話したことすらあまりなかったと思う。


自分で言うのもどうかと思うけど、僕は1年のときからずっとエースとしてチームを引っ張ってきた。
周りもそのことを認めないやつはいなかったし、監督や他の選手からの信頼もあつかったはずだ。


一方、原田は最後に一度だけ補欠としてベンチに入ったくらいで公式試合には出たことがない。そんな程度の実力だった。

そんな彼を後輩はバカにして影で呼び捨てにしたりしていた。事実、僕もそう呼んでいたし心のどこかでバカにもしていたのかもしれない。

いつも練習量は人一倍こなしていたのに、報われない彼は見ていて哀れだった。



実力と成績がモノを言う世界だ。

仕方ない。






「軟式なら負担も少ないと思うんだ。一度でいいから見に来てくれないかな?」

原田は懇願した。


人がいい僕は曖昧に笑う。



軟式なんてお遊びじゃないか。

僕はこれまでの人生のほとんどを野球に捧げてきたんだ。プライドもある。


「一度だけでいいんだ!火曜日の朝7時にグランドでやってるから必ず来てほしい。」
必死になって頭を下げる彼に、僕は胸でも痛んだんだろう。
苦々しく笑いながら、

「イチドダケ…」

とつぶやいた。






ただ一度だけ…


一度だけ…