「ただいま」


瑠衣斗の声は、玄関の音と重なり合ったが、十分聞こえる大きさだ。



手短にそう言いながら足を踏み入れると、賑やかだった声が更に大きくなる。



しゃがんで手際よくももちゃんの首輪からリードを外すと、元の場所へとリードを戻し、ももちゃんの足をタオルで拭いた。


そんな様子を見ながら、ちゃんとお手伝いしてたんだな。なんて呑気に考えていた。


「よし、いいぞ」



優しく微笑む瑠衣斗は、ももちゃんの大きな頭をふわりと撫でた。


手が放れるのを合図に、勢い良くももちゃんは廊下へと飛び乗る。



瑠衣斗は立ち上がると、腰に手を当て、ふぅと息を付いた。


「…上がんねーの?」


「え。あ、お邪魔します」


玄関で立ち尽くしていた私に、瑠衣斗が不思議そうに声を掛ける。


すっかりと見入ってしまい、お邪魔しますと言う事まで忘れていた。


先に靴を脱ぎ廊下へと上がった瑠衣斗は、ももちゃんと並んで私を待っている。


いそいそと廊下へと上がると、瑠衣斗とももちゃんに続くように、声のする部屋へと向かった。



「ただいま〜」



部屋の扉は開かれており、少し覗き込めば中の様子が伺えるくらいだ。


「あら瑠衣斗、お帰り〜。で、お連れ様は?」


一瞬にして、誰の声か分かった私は、何となく瑠衣斗の後ろから顔を出せずにいた。


きっとこの声は、るぅのお母さんだ。


「お帰り〜!!遅かったなあ!!」



元気な龍雅の声がしてきて、お願いだから変な事だけは言わないで欲しいと本気で願う。


チラリと私に振り返った瑠衣斗は、そのまま右手を私に向かって伸ばした。


………ん?


瑠衣斗の顔と手を見比べてみるが、掴めという意味なのか、それとも別の意味なのかよく分からず、身動きが取れない。



「来いよ」


「えっ」