いちえ




何となく、自分から言う事ではない気もして、視線を落とした。


慶兄に頼りっぱなしな気もするけど、私から言う事ではない気がしたからだ。


私が瑠衣斗に言う事で、何だかまた慶兄を傷付けてしまうような気がした。



「瑠衣斗」


「…なんだよ」



もんもんとしていた私の耳に、慶兄と瑠衣斗の声がやたらクリアに届いた。


胸が反応するように、グッと縮んだようだ。



「態度でかいぞ」


「……何ですか」



いつものようなやり取りが、今は何だか無性に切ない。


瑠衣斗と慶兄が会話する姿を、私は直視できなかった。



「俺達、別れたから」




すんなりと慶兄が告げた途端、思わずグッと目を閉じた。


何も言わない瑠衣斗に、不安が積もる。


一見明るい話題を言うような口振りは、冗談にも取れてしまうようだ。



慶兄に言わせているような感じがして、本当に申し訳なくて仕方がない。



慶兄は、どうしてそんなに普通で居られるのだろう。


私に気を使わせないために?気にさせないために?



自信過剰かもしれないけれど、まだ私の事を大切に思ってくれていると、そう感じる。



「………はっ?」




私は、端から見れば嫌な女でしかないだろう。


でも、それでいい。


慶兄を傷付けた分に比べれば、それくらい私には何のこともない。



慶兄は、頑張れって言ってくれた。

でも、私にはどうすればいいか分からない。


それに、瑠衣斗とどうこうなりたいと思っていた訳ではない。


ただ、自分の好きという気持ちに、気付いただけだったから。



「だから、別れた」



「……」



驚いた顔をした瑠衣斗が、私を見つめる。


私はまた、不自然に視線を泳がすしかなかった。