「夏樹君。今まで私と話をしてくれてありがとう」


僕の思案を置いてけぼりに八幡は言った。


「私ね。あんな風に楽しくお喋りしたの初めてだったの。だから……」


微笑みは続く。だけどその中に介在する感情は笑顔で出せるものではない。


「八幡さん」


「だから、ちゃんと夏樹君にお礼がしたかったの。


ありがとう」


「そんな、八幡さん……」


それから八幡は僕にキスをして、小さく「さよなら」と呟き、去っていった。


その瞳には涙が宿っていた。