「突然いなくなるよりかは、まだ心に準備が出来るだけマシだもの」


八幡は力なく言う。その言葉は、僕に向かってではなくあたかも自分に言い聞かせるようなものに聞こえた。


それから間もなくカラス達の鳴き声が止み街に静謐が訪れ、僕らにも寂寥感を孕んだ沈黙がやって来た。


数歩、数十歩歩いても、声はなく、アスファルトを叩くローファーの音しかしない。


八幡を一瞥すると目が合った。その目には愁いが込められているかのように淡く揺らめいていた。


僕は再び地平線に目を戻す。八幡も地平線に目を向けた。


澄み渡る青のパレットに朱が混じる。それは一つの絵画のように佇み、だけど不変じゃなくコントラストは常に変化を見せる。


その内、二色は完全に混ざり、うんげんを空へ織り込むのだ。


僕と八幡は沈黙を引き連れて地平線を眺めながら歩いていった。