例えば、それがキオクだったら…



       *


「なぁ~、珪~」

「………」

「なぁ~ってば、珪~」

道の途中、ずっと話しかける遼。

元々、人と話すのが好きじゃない珪からすれば、

鬱陶しくて仕方が無い。これ以上無い苦痛だ。

「なぁ~、なぁ~」

そんな珪の心境など知る由も無く、遼は話かける。

「…なんだ」

あまりの鬱陶しさに、仕方なく返答。

勿論、必要最小限の。

「け~い~く~ん~」

珪の声が小さかったせいか、遼は更に大きな(鬱陶しい)声で、

しかも“くん”まで付けて珪を呼ぶ。

「鬱陶しい。“なんだ”と言ったのが、聞こえなかったのか?」

幼馴染の男に“珪くん”なんて呼ばれて、余程気持ち悪かったのか、

珪は、珍しく少し怒ったような声でキツめに言い放った。

「そ、そんな怒るなよぅ~」

「やめろ、気色悪い」

スパっと切る。サラっと流す。

美しいスルーの模範ですね、はい。

「…んで、なんだ?本題は」

珪が、やっと本題に戻す。

二人だと、どうにも突っ込みに時間がかかる。

「あ、そうそう。寄るトコって、どこさ?」

やっとまともな会話が始まった。

「…ん?あぁ、まぁな。行けば分かる」

「そっか~」

まともな会話が終わった。一瞬で。