例えば、それがキオクだったら…



       *


「ね、一緒に帰ろ」

いつもと同じように、晴香が声をかけてきた。

「……今日は、遠慮しとく」

珪は、今日はやりたいことがあったので

軽く晴香の誘いを断った。

晴香は肩を落として教室を出て行く。

珪が“やりたいこと”なんて、明日はきっと台風だ。



「……今日は、晴れてるな…」

呟いてみた。一人で。

相変わらず、無駄に広い校庭をひたすら歩く。

晴れていると、夕日が結構綺麗に見える。

校庭というのも、悪くないもんだ。

「よぉ、待てよ」

不意に、誰かに声をかけられた。

晴香ではない。男の声だ。

「……お前か」

振り返った先、目に映ったのは遼だった。

「今、帰りか?なぁ、たまには一緒に帰ろうぜ」

遼は、にこにこしながら誘ってきた。

どうしてこうも、用がある時に誘いが多いのか…。

「……俺、寄るトコあるから…」

珪は、少し顔を歪めて断る。

しかし、遼は晴香ほど素直な奴ではない。

「なら、俺も付き合うからさ」

調子良く勝手なことをぬかして、珪の隣を歩く。

実に素早い。

「…お前、めちゃくちゃだ」

明らかに迷惑そうな表情で、珪は歩くスピードを上げた。

「いいって、いいって」

お前がよくても、相手は嫌がっているのだ、遼よ。