例えば、それがキオクだったら…



       *


「おぅ、珪。ギリだぜ~?テスト当日だってのに、余裕だなぁ?」

席に着いた珪に、真っ先に声をかけてきたのは

小学校時代からの友人、長谷部 遼(ハセベ リョウ)。

成績の方は、珪の半分くらい。…絶望的だ。

「…お前と一緒にするな」

珪は、完全に遼を見下した笑みで言い放つ。

割と仲が良いからか、遼と話をする時は、少しだけ口数が増える。

「あ、ひっでぇ。いいよなぁ、天才くんは」

「…別に。天才って訳じゃない」

“天才”という言葉に、少し顔をゆがめる珪。

そういうとこ、まったく鈍い遼は、気づくよしも無かったが。



       *



「ねぇ、珪?」

「…ん?」

いつもの光景だ。

屋上、珪、弁当、晴香。

「テスト、どうだった?」

今日も、相変わらずに晴香が話を振る。

「……その質問…意味、あるのか?」

珪が嫌味っぽい言葉を投げかける。

本人、そのつもりはないんだろうが。

「自信たっぷりなのねぇ~?」

平均レベル、一般ピーポーな晴香は、引きつった笑顔で応える。

「…当然だ」

そんなこと、知ってか知らずかスルーする。

「へ、へぇ~…すごいね」

晴香は、珪のことを心底恨めしく思った。

勉強ばかりでなく、運動だってできる。

ルックスだって、悪くない…いや、かなりいい方だろう。

まさに非の打ち所の無い人って感じだ。

一般人の理想そのものなのだ。



「…珪が、遠いところに居るみたいだよ」



そっと、口に出してみた思い。

時が経つに連れて、どんどん離れて行ってしまうような気がしていた。

「…? 手、届く位置だろ?」

ぽんと肩を叩かれた。

珪の言ってる距離は、晴香の思う距離とは意味が違うのだが…

「……そうだね♪」

晴香には嬉しかった。

ほんの一言だけど、心が軽くなれた気がした。

珪にそんなつもりは全く持ってありはしなくても。

嬉しかったのだ。