例えば、それがキオクだったら…

      *


「おはよっ、珪」

「……あぁ」

朝っぱらから、いつもと同じようにハイテンションな晴香。

対照的にローテンションな珪。

「昨日はごめんね、一緒に帰れなくて」

晴香は、珪がそのことを気にしているとでも思っているのだろうか?

珪からすればそんなこと、気にするに値しないのに。

「…別に。結構、よかったから」

「…?」

珪の言葉は、晴香には不思議だった。

“よかった”なんて言われると思っていなかったからだ。

「よかったって…何がぁ?」

阿呆みたいな顔で、晴香が珪の顔を覗き込む。

見るな。と、晴香の顔を払いのけて

「…なんでもない」

の一言で、さっさと歩く珪。

身長差が激しいこともあって、晴香よりも随分と歩くのが早い。

晴香は、置いていかれまいと慌てて小走りになる。

「待ってよ~」

「勝手について来い。俺は待たない」

非情にも、珪は少しも待ってはやらない。

何故こんな男の傍にいるのだ、晴香よ。

「ひどい~」

苦笑して、晴香は珪の隣についた。

「……はぁ…物好きなヤツ」

最近の女はみんなこんなもんなのか?

などと考えながら、遅刻ギリギリで校門をくぐった。