言いたいだけ言って、行ってしまった。
やっぱり森本は、かっこいい奴だな、と思った。
俺なんか、全然ダメなやつだ。
どこが大人の男なんだか。
と自分にツッコミを入れたくなる。
「侍先生?」
ふと、姫条の声がした。
森本が開けっ放しにしていたドアから、覗きこむように見てくる。
「どうした?」
「いや、廊下歩いてたら…進路相談室のドアが開きっぱなしだったから、覗いたら侍先生が居た…みたいな」
「なるほどな」
「何してたの?」
「んー…別に。 サボってただけ」
なにそれー、と姫条は笑った。
姫条の腕を引っ張る。
バランスを崩して、俺の胸に飛び込む形になった。
「さっ、侍せんせ…? ドア開きっぱなし…だから」
「もうちょっとだけ」
子供でも、大人でも無くって。
『一人の男』として…だと、俺は全然ダメだ。
普通にヤキモチも嫉妬もするし。
それを表に出せない、ただの不器用人間で。
それが大人だって思ってたけど。
森本に勝つ自信なんて無いけど、姫条は俺のものだって確認したくて。
こうやって強引に抱きしめたりもする、ダメな男なんだ。