でもある日、アヤの携帯から着信音が鳴ったんだ。

(あ、これリョウだよ! アヤ、この音はリョウからの電話だよ!)

慌てて携帯を取ったアヤは食いつくようにして話しかけた。

「リョウ! どこにいるの? 早く帰ってきて。帰って来てよ……」

アヤは泣きじゃくりながら「うん、うん」って頷いてる。でも少し笑ってるからきっと帰ってくるんだろう。


よかった。リョウが帰って来る。



それからまた何日かすると玄関からリョウの声が聞こえたんだ。「ただいま」って。

アヤは泣きながら、でも嬉しそうにリョウに飛びついてね、二人でずーっと抱き合ったままだった。


こんなに好きならなんでケンカするんだろ?

 
二人ともこんなに好き合ってるのにね……




それからしばらく二人は静かに暮らしてたんだ。

ある日、リョウとアヤが荷物の整理を始めた。たくさんの荷物を引っ張りだしてはダンボール箱に詰めている。

(何してんだろ?)

だんだん部屋の中がガランとしてきた。

そしてあらかた片付いたとき、リョウが僕を手にとってこう言ったんだ。

「アヤ、パノを連れてって」

(連れてって?)

僕はすごく悲しくて悲しくて、とっても悲しくなった。

(僕はどっかに行くの? リョウは一緒じゃないの? なんで三人一緒じゃないの?)



そして僕はアヤと一緒に新しい部屋に来たんだ。

リョウの居ない新しい部屋。

「ごめんねパノ。あなたを見てると悲しいことばかり思い出すの……」

ある日アヤはそう言って、僕をダンボールの箱の中に入れてしまった。

蓋がゆっくり閉まって光がだんだん小さくなる。



最後に見たアヤの顔、すごく悲しそうな表情だったことは覚えてる。


そして真っ暗になった。


僕はあれからずっとここにいるんだ。もうアヤの顔もリョウの顔もおぼろげになってきた。


二人とも僕のこと忘れちゃったのかな?




僕はずっと忘れてないよ。僕は今でもここに居るんだよ。