アタシはドアを開け、車から出ようと左足を出したトキ、

「なあ、衣理」

ノブに呼び止められた。


「………何?」

声のする方へ振り向く。
するとノブはゆっくりと口を開いた。


「―――――俺、衣理に……昔のオンナを不幸にしちまった分、他の男と幸せになって欲しい………」

「えっ………?!」

「水嶋さんと、幸せになれって事だよ。さっきも言ったけど、掴んだ幸せ、ぜってー逃すなよ」


ハンドルに腕をかけ、身体を預けたままの姿勢。
でも、目は真っ直ぐな瞳でアタシを見詰める。


動けない………。
瞳を反らすことが出来ない。


「なんも出来ないかもしれねぇが、俺でよかったら、相談乗るから………」


何でノブは、こんなにやさしくなったんだろう………?

辛い悲しみを乗り越えた………から?


そんなにやさしくしないでよ………。


やさしくしないで。


やさしくしないで………。




涙が溢れてくる………。


やだ………止まらない………。


シン。
しっかりアタシを掴んでよ………。




涙を手の甲でゴシゴシっと拭い、精一杯の笑顔で、

「ありがと。アタシたち、いい友達になろーね。よろしくねっ!じゃっ、またっ………気をつけて帰ってねっ」


元気に振る舞い、足速にノブの前から去った。


息を弾ませ、必死に家まで走る。


ノブが。
アタシの心にじわじわと。


入り込んで来そうで怖い………。