「今の時季の夜風は強いんだ。外に出るなら、顔を覆うショールくらいは持って出たほうがいい」
そう言うと、彼はあたしを立たせ、片方の手に持っていた絹のショールをあたしの頭にかぶせてくれた。
「あ……ありがとう」
ニコッ……と小さいけれど、彼が笑った。
う!!
これはやばい!!
あたしを誘拐した張本人で。
あたしが辛い思いをする原因を作ったやつで。
ぶっきらぼうで、やな感じのやつで。
『運命の王子様』なんて絶対にこいつじゃないって。
そう思うのに。
なんか、今の笑顔で全部帳消しにしちゃいそう。
「寒くないか?」
ぶんぶんと、あたしは大きく顔を振った。



