「ご苦労様」

差し出されたタオルを受け取って、シュリはびしょびしょに濡れた服の上から押さえた。

ユーリくんが焚いた火を囲みながら、あたしはにこやかに歩いてくるカレンを見つめた。

「本当にうまくいったのかな?」

「すぐに伝令が参りますよ」

言いながらカレンは黒塗りのおわんとお箸を差し出した。

おわんの中で白いものや、赤いものが浮かんでいる。


懐かしいこの匂いは味噌?


「トン汁?」

「我が家に伝わる秘伝のタレで作った野菜スープです。姫様のお口に合うと良いのですが」


確かにね。
トン汁には野菜たっぷりだし。
『野菜スープ』に間違いはないけどさ。

『トン』なんだから『豚』なんだよね?

この国には『豚』の種族はいないって考えていいんだよね?


「ユナ、考えすぎだ」

シュリって。

あたしの心の中の声、聞こえちゃってるわけ?


一口すする。

ふんわりと口の中で広がる甘みと香り。

忘れもしない、食べ親しんだこの味にパパの笑顔が見え隠れ。


「ああ、ホッとするぅ」


ホッとしすぎで涙でそう。

そういえば町内会のマラソン大会でパパがよくトン汁作りに借り出されていたな?

『天海さんちのトン汁食べたら、他の味噌汁飲めなくなっちゃいましたよぉ』

なんて褒められて、テレまくっていたパパの顔が懐かしい。


なんでパパかって、普通ならツッコまれるよね。

うち、稼ぎ頭と主婦が逆転してる『逆転夫婦』の家庭なんだな。

だから、料理はパパのお仕事。