「シュリ。準備はいいですか?」

「ああ。いつでも構わない」

グラシュビッツランドのど真ん中を走るカーネル河の源である巨大な湖シェティエン湖。

その浅瀬に、シュリは腰くらいまでどっぷりと浸かっていた。

体の芯まで凍らせるような冷たい水なのに、相変わらず、シュリは無表情な感じだ。


足まではっきり見えるほどに澄みきっている水。
太陽の光に輝く水面には鏡のようにはっきりとシュリの姿が映っている。


ネコミミにネコシッポ。

もとい。

ライオンミミにライオンシッポ。

おまけに見とれてしまうくらいに立派な『たてがみ』。


「では、深く息を吸って」

「3・2……1!」

カウントダウンに従って、シュリは水の表面に手を浮かべ、力を集中させる。


ゼロのカウントが聞こえた瞬間。

手のひらに集中した力を放出させたらしく、穏やかだった水面は大きな波紋を作った。

「もうちょっとですよ! ほら、姫様!」

「え?」

「最大出力ですよぉ、って応援しなきゃです。姫さま!」


そっか。

あんまりすごいことしてるから、思わず見ちゃってたわ。


「シュリ! もう少し! ファイトォ!!」

あたしの応援が効いたのか?

湖にはない大波が姿を見せる。

突風が吹き、体を吹き飛ばされそうになるあたしの体をクラウスの腕が支えた。


「大丈夫ですか?」

「うん! ありがと」

波が河へと突き進み、上流から下流へと駆け抜けて行く。

湖に再び静寂が戻ると、あたしは湖を上がってくるシュリにバスタオルを差し出した。