ワインに麻痺させられた私の足取りは、簡単にその場に崩れてしまった。

その間に、直也はさっさと歩いて行った。

「直也あぁぁ~」

何でこんな事に…なってしまったの?

あのSMの誘いがなかったら、こんな事になっていなかったのに…無性に怒りが湧いてきた。

怒鳴ってやろうと後ろを振り返ったら…SMは…最早どこにもいなかった。

何か怪しい雰囲気を察し、多分消えたに違いない。

直也の修正をしなきゃ…。

SMとはさっき知り合ったばかりだって…彼女にドタキャンされて…急きょ声かけられたんだって……。

連れて行かれた店は、ホテル街のど真ん中だけど、本当にご飯食べただけなんだから、信じてよ、直也……。

そうだ、SMに証人になって貰おう。

?SMの名前って何だったけ?

確か…前田…Sだから…さ、さとしって言ってたよね。

  前田さとし。

立ち上がり、私はもといた場所に引き返した。

辺り見渡したが、前田さとしは何処にもいなかった。

そう言えば…携帯番号さえも聞いていなかったんだ。

 生き証人が消えた。

  どうしよう…。