居酒屋で、正面の佐々木は、生ビールをゴクリゴクリと飲んでいる。

  美味しそうに……。
口元に泡を残したので、そっとハンカチを差し出してあげた。

「はい」

「あっ、サンキュー」

嬉しそうな顔して…哀れな男…これが最後だとも知らないで…。

えぇ?でも、どうしたんだろ?

スーツなんかでビシッと決めちゃって…これが最後の晩餐ってまるで予想していたみたい。

どんなにカッコつけたって…もう顔見る事もないわ。

キャバクラなんかにはまるから悪いのよ。

甘い夢に落とし穴は付き物なんだから…。

でも、多分、きっと、いい勉強になるわ。

生きた教材に出会えて、幸運だと思ってよね。

あなたが私を好きなように…私も翔が好き。

でも…翔にとって私はお客…って事は知っている。
それでも構わないよ。

私が好きだからそれでいい。

好きな男に抱かれて後悔残す事はないわ。

翔は、恋愛を売っている…私はそれを買う。

どこかでお金を工面してきてでも、この買い物はやめられない。

「リコ、そろそろ時間だよね…」

佐々木が言った。

「あっ、そうね、遅刻したら、同伴しても意味ないもんね」