──そして。



それからは、まるでスローモーションのようだった。


大きな影が近づいてきたと思ったら、唇になにかが触れる感覚。


それが陸の唇だと分かったとき、あたしの中で何かが音を立てて壊れたような気がした。



う、うそ……


ちょっと、待ってよ。



今の、なに──?



そっと、自分の唇に触れる。

まだ残っている、柔らかい感触。



「…ッ!」


気づいた時には、足が勝手に動いていて。


陸の手を振り払い、あたしは逃げるように部屋にかけ込んだ。