「脳しんとうですね」


目の前にいる白衣のおじさんが言う。
あたしは口を小さく開いたまま、そのおじさん――お医者さんが、カルテに走らせていくボールペンを、ぼんやりと見ていた。



階段から落っこちた日から1日。
お医者さんの言うとおり、脳しんとうを起こしたあたしは、今まで眠っていたらしい。


おでこには大きめの絆創膏。


そして――





右足には、どれくらいの長さかわからないくらいの、包帯が巻かれていた。


座っているのは、診察室の丸イスじゃなくて、初めて見た車イス。
丸イスはというと、お母さんが後ろで陣取っていた。


頭がズキズキと痛む。
強く打ったのか、おでこの違和感はいっこうに消えない。


「それで、あの……足のほうは……どうなんでしょうか?」


お母さんが足のことに話題を変えたとき、あたしの口元は閉じ、ヘの字に変わった。


自業自得といえでも、この状況を「はい、そうですか」って受け取れるほど、素直じゃない。