朝。


いつも通り、弓を引き、鯉に餌をやることから私の一日は始まる。

澄んだ薄い青色を見上げる。

そして朝食を済ませ登校する。


いつも自分の決めた節制ある日々を過ごしている。



しかし今は、未礼を預かる身の上。
未礼に気を配らなければならない。


朝、遅刻せぬよう起こすことも役目の一つである。



鯉の餌やりを終え居間に入ると、すでに朝食の用意が整えられていた。

隣の部屋に続くふすまの前に立つ。


おそらく携帯電話のアラームだと思われる。
繰り返し何度もバイブレーションの音が聞こえてきていた。

鳴り続けているのは、起きていないからであろう。
音を鳴らせばもっと早く気づくだろうに…。


「未礼、朝だ」
部屋に向かって声をかけた。何度も。

返事がない。


女性の寝室に軽々しく入るのは気が引けるが、怠惰を正させる役目があるのだ。

自分の中で入室を正当化させると、
「入るぞ!」
大きな声で呼びかけ、ふすまに手をかけた。

戸を開けた瞬間、漂う空気がすっかり未礼の存在感で満たされているのを感じた。


そして案の定、本人はまだぐっすりと眠っていた。

顔が半分以上隠れるくらい、布団をかぶり、寝息が規則正しいリズムを刻む。


「未礼、朝だ。起きないと遅刻する」
何度も声をかける。
目覚める気配が感じられないので肩をゆすった。

「…う〜ん」
ようやく布団の下で、もぞもぞと動き出した。

もう起きるだろうと思ったのもつかの間、そこからが長かった。まどろみの中で、いっこうに覚醒しない。

「未礼」
「…うん…………」
「未礼」
「…………う……ん…」

何度このやり取りが繰り返されただろうか、30分かけやっと未礼は、起き上がった。





「なんで?」

不思議そうな顔して未礼がたずねる。

布団をたたまない未礼に、なぜたたまないのか聞いたところ、返ってきた言葉である。


「朝は、布団を片付ける。寝る前にまた敷く。
当たり前のことだ」


「だってどうせ夜また敷かなきゃいけないんだよ?
それこそ無駄な労力使ってると思わない?」