ほんの一月前のことだ。


未礼との見合いのあと、松園寺家の現当主である父が私に言った。

この私を、自分の後継者とする、と。

その旨を、3ヶ月後の正月に、一族の前で宣言するつもりである、と。


やっと私の地位が確定する。


待ち望んだ結果に、喜んだ矢先の、

いとこの優留(スグル)の宣戦布告。


今、この時期にわざわざ我が家に訪れたということは、“正月の後継者宣言”を見越してのことのはず。


私が後継者に確定する前に、優留は私を倒しに現れたのだろう。

私を抑え、自らが後継者となり、この家を支配するために。

だが、後継者認定・宣言の話は、まだ私しか知らないはずなのだが…。



あきらかに寝不足だったが、気が高ぶり、眠気など感じなかった。
学校に来ても、授業など耳に入らない。

無意識に爪を噛んでいた。
自分が、いらだっていることに気づいた。



「ずいぶんと余裕のないお顔をされていますこと。
いよいよ、松園寺家のお家騒動勃発、といったところかしら?」


昼休み。

雲はいまだ分厚いままだが、雨は止んでいる。

校舎の屋上で一人たたずむ私のところへ、琴湖が現れて出し抜けに言った。


「相変わらず耳が早いな」

私は皮肉気味に返したが、琴湖も負けてはいない。

「あら、松園寺家の覇権争いの話なら、耳をふさいでいても、聞こえてきてよ」

「・・・だろうな」


「後夜祭で未礼さんをエスコートしたのが、話題のきっかけになったことは確かですわ」

「未礼との関係はもとより隠すつもりはない。だから後夜祭に参加しなければ良かったなどとは思わん」


「ええ。ですが、水面下での動きは活発になったようですわ」


私と琴湖の間に緊迫した空気が流れた。

松園寺一族すべてが、私や私の父の味方ばかりではない。
反乱分子は、いて当然であろう。

父にメールを送って探りを入れたが、返信はまだない。


優留は、政権争いに勝つための有力な“何か”を得て、満をじして行動に出たと考えて間違いなかろう。

とにかく、わからないままだ。
優留が、一体何を得、どう動いてくるつもりなのか。


優留は、反乱分子の筆頭だ。