晃が陽歌を伴ってリビングへ向かうと、蒼がブレンドした豆をミルで挽いているところだった。
部屋いっぱいに引き立ての豆の香りが立ち込めている。
陽歌は蒼の傍へ飛んで行き、興味深げに手元を見つめた。
コーヒーの豆の調合も、茜が選んだミルでそれを粉にしていく様子も、全てが新鮮なようで懐かしかった。
「陽歌ちゃんもやってみる?」
確かに茜の記憶にはあるが、ミルを使った経験のない陽歌は、見よう見まねで手を動かしてみた。
ミルのハンドルから伝わる振動が懐かしい。
鼻腔を擽る香りが、徐々に体に馴染んでいくのがわかった。
蒼がサイフォンでコーヒーを落とす間も、陽歌は瞬きもせずに見つめていた。
火を降ろすタイミングが難しいと、蒼にスパルタ教育を施したのが昨日の事のように蘇り、思わず笑みが零れた。
「これはね、茜が晃君のために考えたブレンドなのよ。陽歌ちゃんも覚えて晃君に淹れてあげてね? サイフォンで淹れるのは慣れるまで結構大変だけど…」
「教えて下さい。私、やってみたい。お願いします」
「いいわよ。でもスパルタだから覚悟してね?」
蒼は綺麗にウィンクすると、嘘よと付け加えてクスクス笑った。
蒼の笑い方も声も、茜にそっくりだ。 陽歌の知っている茜の写真よりも少し年令を重ねているが、やはりとても綺麗で、茜が生きていたら見分けがつかないほどだっただろうと思った。
「蒼さん。…あのね、お姉さんって呼んでも…いい?」
陽歌の遠慮がちなお願いに、蒼は一瞬大きく目を見開き、ゆっくりと表情を崩すように笑った。
「もちろんよ。私は陽歌ちゃんを妹だと思っているもの」
蒼の笑顔はまるで真っ白な月下美人のように艶やかで美しいと思った。
同時に桜の花が舞うように微笑む茜のイメージが流れ込んでくる。
二人の姉に大切にされている実感が、陽歌をとても幸せな気持ちにしてくれた。



