陽歌は見慣れない部屋のベッドで目を覚ました。
頬には幾筋もの涙が伝った跡がある。
もう茜は消えてしまったのだと思うと、哀しみがこみ上げてきて、再び頬を涙が伝っていった。
ひとしきり泣いて気持ちが落ち着いてから、静かにベッドから降りる。
どうやら客間らしく、細かな彫刻が施された重厚なドアを開けて部屋を出ると、10畳ほどのリビングに繋がっていた。
リビングのソファーには晃が眠っていた。
良い夢を見ているのか口元に微笑を浮かべ優しい表情をしている。
起すのは可哀想だったが、このままでは風邪を引いてしまうと思い、思い切って声を掛けた。
「…晃…さん…起きてください。こんな所で寝ていたら風邪を引きますよ?」
陽歌の呼びかけにも目を覚ます様子は無い。
カーテンの隙間から漏れる朝陽が、夢の中で何度も触れた癖のある茶色の髪を紅く染めていた。
閉じられた長い睫毛も、綺麗に通った鼻筋も、笑みを浮かべる薄い唇も、何もかもが愛おしい。
何度も口づけた記憶が蘇り、その時々の茜の感情が懐かしく込み上げてくる。
陽歌は驚きに大きく目を見開き、信じられない思いで心の中に問いかけた。
「…茜さん? …もしかして…私の中にいるの?」



