そんな風に、物思いにふけり、書類を書く手も止まっていたとき、

「大奥様。」
廊下から椿の声が聞こえた。

「どうぞ、入って頂戴。」

すっと襖を開けて椿が入ってくる。

「大変です。
どこを探しても錫子さんがいません。」


それを聞いて、小百合はぼやけていた頭が、一気に覚醒するのを感じた。



結局、錫子は逃げてしまった桜と同じなのか。

「どこを探してもいないのね。」
確認するように念を押す。
「はい、部屋から蔵の中まで全てを探しました。
錫子さんは皐月神社の敷地にはいません。」

「携帯にも出ないの?」

「はい。
というか携帯は部屋に置きっぱなしになっていました。
財布もバッグも何もかもありました。」
小百合はゆっくりと立ち上がる。
年を感じさせない、滑らかな動きだ。


「椿さん。この事は内密に。
今は大事な時期です。大事にしないほうがいいです。
お財布も携帯も置いていっているのならすぐに帰ってくる可能性もあります。
私は月宮様のところへ行きます。
錫子が帰ってくるとき家に誰もいなかったらまずいので椿さんは家で待機して置いてください。何かあったら連絡します。」



そういって、小百合は出かける支度を始めた。



錫子は桜とは違う。
帰ってくる事を期待しよう。