そのため、この部屋には誰もいない。
小百合は、誰に話しかけるでもなく一人ごちる。

いや、月に話しかけてでもいるのだろうか。


「この神社の唯一の後継者だと思い、私も少々きつく育てすぎたかもしれません。
娘たちのようにならないことを願います。」


夫が娘に厳しくしつけをしているときは、小百合も反発心を覚えた。
夫は、婿養子だったが、ひどい亭主関白で、妻である小百合が、少しでも夫のすることに口を出そうものなら、それこそちゃぶ台をひっくり返す勢いで怒り散らしていた。

そのため、娘たちが夫により育てられるのをただ黙ってみていたが、気がつけば小百合も夫と同じことをしていた。

どうしても、自分の直系の娘に家を継がせたいという欲もあった。

でも、月宮当主との話し合いにより、正式に錫子を後継者とすることが決まり、肩の荷が下りたとともに、言いようがない虚無感に襲われていた。

これまで、無我夢中で、娘を育て、孫を育て、藤神家当主としての責務に負われていたけれど、いったいそれに何の意味があったのかと。


ただ、愛おしい子供や孫がただ生きてくれているだけでは、どうして我慢できなかったのだと。