錫子の祖母、小百合は篝祭りの準備のための書類をまとめていた。

今年の篝祭りは、錫子の正式に後継者となることを発表する場でもある。
反対派にとやかく言わせないために、立派なものにしなければならないのだ。


部屋の外に面した襖は開けられていて、縁側から秋の夜の心地よい風が吹き込んできている。
そして、机の前に座る小百合が外を見ると、美しい満月が輝いている、煌煌と。


「それにしても、あの子も大きくなりましたね。
つきのくにの話を寝物語にしてあげていた頃が、ずいぶんと遠い昔のように思えます。」

小百合の夫は、もう十二年も前に他界してしまっている。
夫は頑固な昔の父親を絵に描いたような人物で、娘たちをずいぶんと厳しく育てていた。
それが、結果的に娘の反抗をあおり、長女桜は、決められた結婚相手と結婚し、娘である錫子を産んだが、その後錫子を置いて他の男と駆け落ちをし、次女紫は、家を継ぐことを嫌がり、出版社に就職をしてしまった。