「真実の愛を見つけたんだ!」の後、逆断罪された王子を貰い受けまして。



下働きの巡回を終えた殿下に、私は次の課題を出しました。

「次は、傾聴の訓練です」
「聞く、だけか? ……ずいぶん地味だな」
「でしょうね。けれど殿下の点数で、一番低いのは謝罪の次に傾聴です」

訓練の相手に選んだのは、宮殿の東門の門衛長、ガレスでした。七十二歳の退役軍人で、四十年間門に立ち続けている老人です。

そして彼は、宮殿でいちばん「話が長い」ことで有名でした。

「課題は簡単です。毎夕、一時間。ガレスの話を、口を挟まずに最後まで聞くこと。助言も、結論も、感想すら禁止です。許されるのは相槌と質問だけ」
「……それは、訓練なのか?」
「将来、あなたには貴族院へ行ってもらいます。帝国中の領主の後継者と、上級貴族の子弟が集まる学び舎です。あそこではまず、人の話を聞くところから始めるそうですよ。――今のうちに、土台を作ります」

殿下は、ぴんとこない顔で東門へ向かいました。

初日は、散々でした。

ガレスの話は、国境の警備をしていた若い頃の武勇伝から始まりました。

「……わしが二十の頃、冬の峠でな、狼の群れに囲まれてな。剣一本で夜明けまで持ち堪えたもんだ。あの時の隊長が、後に将軍になったベルク様でな――」

壮大な話です。ただし、将軍の名は三回変わり、狼の数は七頭から二十頭に増えていきました。

話は亡き妻の話になり、若い門衛への不満に逸れ、また冬の峠に戻る。同じ話が、二度三度と繰り返されます。

殿下は三十分で、三度口を挟みました。

「つまり、あんたは若い頃すごかった、ということだな」
「その話なら、こうすればよかったんじゃないか」
「要するに――」

そのたび、陰で見ていたマルガレーテが、記録票に斜線を引きました。

帰り道、殿下は不満そうでした。

「あの爺さん、同じ話を何度もするんだ。途中でまとめれば、十分で済む話を一時間だ」
「殿下」
「なんだ」
「人の話というのは、まとめるためにあるのではありません」
「……じゃあ、何のためだ」
「それを聞き取るのが、この訓練です」

マルガレーテが、小さく付け加えました。

「付け加えると、領主の謁見というのは、ほぼ訴えを聞く仕事だそうです。傾聴は、貴族院でも最初に叩き込まれる素養だとか」
「……へえ」
「『つまり』で切る領主の領地は、傾くそうですよ」

殿下は、苦い顔で東門を振り返りました。

二日目、殿下は作戦を変えました。許された「質問」を使うことにしたのです。

「……あんたの奥さんは、どんな人だったんだ」

するとガレスは、武勇伝の途中だというのに、ぽつりと違う話を始めました。

「かかあはな、夜警の連中に茶を配るのが好きでな。寒い夜に熱い茶を飲ませれば、男は眠くならないって。……わしが門衛長になったのは、かかあの茶のおかげだと思っている」

その話は、十分で終わりました。けれど十分の間、ガレスの声は武勇伝の時より若く聞こえたそうです。

三日目も、同じような日が続きました。

変化が来たのは、四日目です。

その日、ガレスは繰り返しの中で、ふと新しいことを言いました。

「……孫がな、騎士団に入ったんだ。去年の秋に」
「へえ」
「手紙の一つも寄越さない。忙しいんだろう。……元気でやってるのかどうかも、分からん」

同じことの繰り返しの中に、時々、本当に言いたいことが一滴だけ混ざる。それに気づいた殿下は、その日初めて、一時間の間、一度も「つまり」と言いませんでした。

帰り際、ガレスが殿下の背に声をかけました。

「若い衆はみんなな、話の途中で『つまり』と言いたがる。まとめれば偉いと思ってる」
「……」
「だが年寄りの話は、まとめるもんじゃない。――あんた、今日は最後まで聞いてくれたな」

最終日、殿下の方から、初めて質問をしました。課題としてではなく、素朴な興味として。

「……あんたの孫は、どんな子なんだ」
「おお。あれはな、子どもの頃から剣が好きでな……」

ガレスは、その日いちばん楽しそうに話しました。孫の話は、一度も繰り返されなかった。一度で、十分だったのです。

別れ際、ガレスは殿下に、小さな木彫りの剣を渡しました。門衛の暇つぶしの手習いだそうです。

「孫にやろうと思って彫ったが、渡す機会がなくてな。あんたが持っていきな」
「……いいのか」
「聞き上手への、礼だ」

その日の夕方、私は騎士団の名簿を確認しました。ガレスの孫は、確かにいました。北の駐屯地に配属された、若い騎士見習いです。

近況を知らせる手紙の橋渡しくらい、私にもできます。けれど、それは殿下の課題の外の話。彼が自分で気づいて動くかどうか、私は少し待ってみることにしました。――まあ、この人のことです。明日にも私の執務室に来るでしょう。

その夜、殿下は木彫りの剣を机に置いて、ぽつりと言いました。

「あの爺さんは、武勇伝を聞かせたいんじゃなかった。……孫のことが心配で、それを言う相手がいなかっただけだ」
「よく聞けましたね」
「聞くってのは、思ったより、仕事なんだな」

私は評価表の余白に書き足しました。

傾聴の訓練は、始まったばかりです。ですが、彼はもう「耳の使い方」を知りました。

――本日の査定メモ:傾聴、観察中。「繰り返しの話の中の一滴を聞き取り、初めて最後まで聞き切った」。参考記録。「ガレスの孫は騎士団所属。近況を伝える手立てがないか、調べておくこと」。