「も、もうやだ、走りたくないよ⋯」
とか言いながら大急ぎで走った僕は、待ち合わせの場所へとやってきた。
「ふうー、⋯あ」
先着がいることに気づき、僕は姿勢を正した。
その人が、十六夜さんだったからだ。
「お、おはようございます」
「あ、おはようっ、紫鶴くんっ」
きゃっと十六夜さんは僕に気がつくと、ベンチからひょいと降りた。
その身軽さに、目がいってしまった。
「まだみんな来てないの⋯」
僕が静かに問いかけると、十六夜さんは頷いた。
「うん。まだ誰も」
ニコリと笑う彼女を見て、僕の胸が高鳴る。
(ほんっとうに⋯かわいくて、純粋な子だなあ⋯)
数秒後、自分の思考にハッとして、僕はうつむいた。
(な、何考えてんだよ僕。不適切にもほどがある⋯)
「ん、どうしたの紫鶴くん」
「え、ああ、いや、みんな遅いなあって」
ふうん、と十六夜さんは僕をまじまじを見る。
何かを見透かすように。
「な、何」
「⋯⋯なーんにもないよっ」
それより見てと、十六夜さんは腰に手を当ててみせた。
「じゃーん。どう、似合ってるかな」
「うぇえっ」
いきなり提示されたそれに、僕は目を見張る。
蜂蜜色のフリルスカートでしょ、そんくらいはわかる。えーと、あとは、黒いショルダー⋯だっけ、なんかそういうバッグ⋯それにそれに、白い長袖にはローマ字でなにか書かれてて、えーとえーと⋯。
「⋯えーと」
「うん」
「⋯」
や、ヤバイ。
常日頃ファッション誌をマネージャーさんやらスタッフさんに、
「紫鶴(さん)はもっとファッションに興味持ったほうがいい(です)って」
とか、何かしら言われて持たされても、興味がなさすぎて、千草や空苑にまわしてしまう。
「これ、あげるよ」
「え、いいの」
「うわ〜」
二人はそれを凝視する。
空苑においては、ファッションセンスないくせに。
(いや、正確に言うと、僕はファッションに興味がないだけで、センスがないわけじゃない。逆に、空苑は、ファッションに興味はあるのに、センスがない。とてもない。)
意味不明すぎる。
だ、だけど、今、後悔している。
ちょっとでも見ておけばよかった。
ちょっとでも、ちょっとだけでも。


