恋なんてしません(仮)―――多分。

「あ、そうだ」
「どうしたの?」
千草は僕や如月さんに十六夜さん、莉風を見て、にこりと笑った。
「次の日曜日に、このメンバーでカラオケ行こうよ」
「賛成〜」
十六夜さんはまっさきに手を上げる。
「私も、その日は予定がありません」
如月さんが手帳をパラパラとめくって、微笑んだ。
「俺も」
如月さん、莉風ときて、みんなの視線が僕に集まる。
「⋯えっ、あ、もしかして僕も範疇⋯ですか」
「いや、普通にそうだけど」
千草が当たり前のように僕に言う。
「え⋯」
まあ、千草が誘ってるんだから、芸能としての予定がないのは確かだ。
そ、そもそも、こんなメンバーの中で僕はしっかり立ち回ることができるのだろうか。
ていうか、歌声でバレちゃわないか。
「⋯」
「あれ、紫鶴くん、行かないの、きっと楽しいよ〜」
「え⋯いや、カラオケはちょっと⋯喉が今枯れてて」
じゃあ、と千草が人差し指を立てた。
「どっかに出かけようよ」
出かけるくらいなら、と僕は頷いた。
「それでもいい?」
と千草はみんなに言った。
「いいよ〜」
そういったのを聞いて、僕は場所や時間を聞いてから、手を洗いに行こうと立ち上がった。

その後、千草は紫鶴が教室から出ていったのを見て、「チョロいな」と言った。
「ええ?」
有栖が千草を見ると、千草は、「ドア・イン・ザ・フェイスだよ」と嬉しそうに言った。
「ドア・イン・ザ・フェイス?」
うん、と千草が頷いて、「別名譲歩的要請法」だと言った。
「最初に相手が断るようなことを言って、それを断られたあとで、本命のことをいって承諾をもらうっていう方法」
「なんで紫鶴くんがカラオケ断るって分かってたの?」
「んー、勘かな〜」
そう言って千草も教室を出ていった。
「⋯なんで分かったんだろうねえ、葵」
「さあ、なんでかな」
分かっていそうな素振りを見せながら、葵は有栖を見た。
「え〜、分かってるんなら教えてよ〜」
「ねえ、莉風」
莉風は葵たちを見て、気まずそうに微笑んだ。