恋なんてしません(仮)―――多分。

僕は至福のひとときに包まれて、もぐもぐとしていた、ら⋯。
「よ、紫鶴⋯ってお前、また十六夜から貰ってるんじゃん」
「うるさい、千草、黙って」
「うわ、本性さらけ出したな」
「⋯うっさい」
僕は静かに千草を睨みつけた。
「ごめんって。っていうかお前さっき、購買で焼きそばパン買ってなかった?」
「ああ、あれ?別にいいの、いつでも食べられるじゃん、あんなの」
すると、背後からまたも如月さんがぬっと出てきた。
「うわっ、如月さん⋯」
「やっほー、葵」
十六夜さんが笑顔で笑いかけ、如月さんは軽く会釈した。
そして、僕の焼きそばパンを指さした。
「聞いた所、それ食べないんだとか。その焼きそばパン、私が買い取っては駄目でしょうか」
「え、いいの」
「はい、ちょうど購買に遅れてしまい、買えなかったんです」
「え、ありがとう」
ぼくは如月さんに焼きそばパンを託したのだった。
「というか、紫鶴、お前、十六夜は推しなんだろ」
「そうだよ」
もぐもぐ、口周りについたホイップクリームを拭い取りながら、僕は言った。
もちろん、十六夜さんは推し。
決して恋愛なんて⋯。
「じゃあ、距離感がさっきからおかしすぎじゃないか」
えっ、嘘。
「え?模範的な距離感だと思うけどな」
「お前、その感覚おかしいぞ」
「えー」
すると、十六夜さんは、後ろの莉風の席に座って、微笑んだ。
「まあ、いいんじゃない。有栖もとても嬉しそうだし。これが対等な関係ってやつかな」
「対等なんてそんなそんな」
推しは拝むものなんだから。崇拝してるから僕。
「ちょっ、葵ちゃん⋯」
十六夜さんは、顔を真っ赤にして如月さんにしがみつく。
「どうしたの、そんな動揺しちゃって」
「⋯」
十六夜さんは黙ってから、恥ずかしそうにうつむいた。
「な、なんにもないよ」
「?」
まあ、何かあったんだろうな。
そう思って僕は十六夜さんを見ていた。