恋なんてしません(仮)―――多分。

「おはようございます」
僕は、静かにそう言って、教室に入る。
よしよし、しめしめ、ここまでは完璧。
あいさつはした、あいさつは生活委員に見張られてるかもしれないけど、誰も見向きもしないぞ。
そーんなことを幸せに感じながら、僕は、影を薄めて教室に忍び足で踏み出した。
すると、その途端に。
「おーい、紫鶴〜、何へんな歩き方してるの」
「っ」
僕は、ゆっくりと声のする方に目をやる。
「ちぐ⋯いや、氷室さん、ははは、おはよう」
僕は、緩く笑顔を作った。
「何、え、どうしたの紫鶴」
くっ、こいつはしつこいな。
「へんな歩き方だね」
「へんな歩き方だね、じゃないって。僕に関与しないで」
僕としては、いますぐ接触禁止令を出したいんだけど。
僕は、千草を睨んだ。
おい、この空気感で分かるだろ。
僕が、身バレしたくないってことが。
「ええー、なんでそんなに冷たいんだよ」
千草は不思議そうに僕を見る。
「⋯」
僕は、自分の席に荷物をおいて、千草の手を引っ張った。
「お、おい、紫鶴⋯」
廊下に出て、登校してきたばかりの生徒とすれ違う。
その生徒の目は、僕じゃなく、千草にいっている。
なんだか複雑な気持ちだけれど、屋上へ行く階段のところで、僕は立ち止まった。