キスするくせに、彼氏じゃない。

「何してるの」

 

振り向くと、律が傘立てから黒い傘を抜いていた。

 

「帰るところ」

「傘は」

「……忘れた」

 

彼は外を見る。

それから、私の鞄を見た。

 

「走る気?」

「止むまで待ってたら暗くなるし」

「駅まで結構あるけど」

「知ってる」

 

二人とも、黙った。

 

雨が庇をたたいている。

私は靴の先へ目を落とした。

 

律が傘を開く音がした。

 

「駅なら一緒だろ」