キスするくせに、彼氏じゃない。

電車には、二人で座れるほどの空席がなかった。

 

一つだけ空いた席の前で、瀬川くんがこちらを見る。

私は首を横に振った。

 

「立ってる」

 

彼も座らなかった。

 

扉の脇に並び、つり革につかまる。

前より混んでいないから、彼の腕を借りる必要はなかった。

 

「それ」

 

私が視線を向けると、瀬川くんは鞄から出しかけた本を止めた。