仕事、仕事、仕事。
私の二十代はそうして過ぎていき、気付けば三十歳を迎えていた。
「結婚式の招待状、出産の報告……ドラマで見てた通りじゃん」
こんなに分かりやすく、高校時代の友人たちとの差を突き付けられるとは。
テーブルの上に積み重なったハガキは、年末の掃除で捨てることにする。
「このニットのワンピース、先週も着た気がするけど……まあいいか」
Vネックのワンピースにアクセサリーを合わせ、レザーの鞄を肩にかけた。……全身が黒すぎるかも。
「別にいいか。デートでもないんだし」
面倒なことは言い訳でごまかして、私は駅ビルへと向かった。
映画館からレストランまで、何でも揃う建物の前で真琴くんは待っていた。
首元の詰まったタートルネックに細身のネックレスを付けて、チェスターコートを羽織っている。
近付くと、嗅ぎ慣れたシトラスの香りがした。ヒールを履いていても彼は見上げる背丈だった。
上から下まで一瞥して私は呟いた。
「黒いわね」
「友里愛さんと一緒だ」
にこっと笑った顔に、確かにそうだと思った。
「さっさと買いに行くわよ」
「はーい」
今日は真琴くんの洋服を買いに行く。衣替えで何枚か見繕うつもりだ。
「高いお店じゃなくていいよ?」
「私が買ってあげるんだから、ファストファッションなんてやめなさい」
「自分は買うのに?」
「私はいいのよ。どうせ誰も気にしないんだから」
質の悪いものは買わないけど、安くてもいいものはあるのだ。
「友里愛さんが選んでね。僕、そういうの分かんないから」
「嘘おっしゃい。いつもキメキメじゃないの」
きっと大学院でも目立つだろう。
派手なファッションじゃないのに、この子はスタイルが良すぎる。
普段の様子を想像して、ふと思い出した。
「あなた、まだ彼女ができないの?」
「突然、何?」
真琴くんは眉を寄せて、私を見下ろした。
「私たちが出逢って、もう半年くらい経ってるんじゃない? 真琴くんならすぐに次の子ができると思っていたのに」
たまたま相席居酒屋で出逢って、その日失恋したという真琴くんを慰めたのが私たちの始まりだった。
「勉強も忙しいし、友里愛さんがいれば欲求不満とかないし……」
「ふうん」
若い女のコのほうがいいはずなのに、悪い気はしなかった。
ブラブラと服を見て回って、あれもこれもと買いすぎた。モデルがいいと何でも似合うんだもの。
「機嫌が良さそうだね、友里愛さん」
「こんな機会でもなければ散財しないもの」
自分のものだと躊躇するけど、買い物って楽しい。
「いつか出世払いするからね」
「貧乏学生なんだから、甘えなさい」
どうせその頃には関係は切れている。
都合のいいオバサンに対して変な約束をする子だと思う。
「何を食べて帰る? 焼肉がいい?」
私だって楽しませてくれているから、お互い様なのにね。


