世界でいちばん、君に届かない

 高校三年生になって、最初に気づいたことがある。

 三年生になったからといって、急に大人になれるわけではないらしい。少しくらい変化があってもいいと思う。朝の目覚めがよくなるとか、数学が得意になるとか、道端で百円玉を拾うとか。

 ……最後のは、成長とは関係なかった。

 そんなことを考えながら教室に入った途端、涼やかな声が聞こえてきた。

「おはよう、澪」

 窓際の席で、一人の男子生徒が微笑んでいる。

 鷺沢怜央くん。高校一年生から同じクラスで、現在は生徒会長。成績優秀、容姿端麗、品行方正で、誰に対しても礼儀正しい。

 欠点というものを、どこかに置き忘れて生まれてきたのではないだろうか。

「おはよう、怜央くん」

「今日はずいぶん早いね」

「でしょ? 私も自分の成長が怖いくらい」

「まだ始業五分前だけど」

「細かいことは気にしないで」

「昨日、相沢さんから連絡があったんじゃない?」

「……どうして知ってるの?」

 怜央くんは、いかにも楽しそうに笑った。

「澪が時間どおりに登校する日は、だいたい誰かの努力があるからね」

「私の信用、どこでなくしたのかな」

「高校一年の最初の週かな」

「そんな昔から!?」

 失礼にもほどがある。初めて同じクラスになった頃は、こんな会話をするなんて思いもしなかった。