世界でいちばん、君に届かない

 カシャ、とシャッターが鳴る。

 液晶画面には、ありふれた春の夕暮れが写っていた。川と橋と空。見直してみると、思っていたよりずっと綺麗に撮れている。

 写真は正直だと思う。

 そこにいなかった人まで、写してはくれない。

「……よし」

 小さく声を出して、カメラを下ろした。

 帰ろう。母に頼まれていた替え芯も、店に寄って受け取らなくちゃ。

 自分の家が文房具店なのに文房具を忘れるなんて、なかなか高度な失敗である。

 そんなことを考えて、少し笑う。

 鞄の中でスマートフォンが震えた。侑芽からのメッセージだった。

『明日、朝から進路の話だって。寝坊しないでよ』

『私の早起き力、信用されてなさすぎでは?』

『実績があるから』

 ひどい。

 反論できないのがもっとひどい。

 スマートフォンを鞄にしまい、私は歩き出した。

 春の街は明るくて、賑やかで、どこを見ても新しい明日が始まりそうだった。

 だから今日も、口にはしない。

 三年前から、私の中に残っている名前を。

 たぶん明日も、私はよく笑う。

 君がいない日常にも、すっかり慣れた顔をして。