世界でいちばん、君に届かない

 私たちは写真を一枚ずつ手に取り、好きなところや次に試したい撮り方を話した。小春ちゃんが熱心に説明するたび、机の上に新しい景色が広がっていく。

「先輩は、どうして写真を撮り始めたんですか?」

 不意に尋ねられて、写真をめくる指が止まった。

「どうして、かあ」

「なんか、きっかけがあったのかなって」

 机に置かれたカメラを見つめる。

 黒いボディの端には小さな擦り傷があった。何度も持ち歩き、シャッターを切るうちに、今では手の一部みたいに馴染んでいる。けれど、最初に夢中になった理由だけは、簡単に取り出せない場所にしまわれていた。

「最初はね、綺麗だと思ったものを、誰かに見せたかったんだと思う」

「誰か?」

「うん」

 その人がどんな顔で写真を覗き込んでいたか、なぜか先に思い浮かんだ。けれど、名前を口にする前に、私はカメラのストラップを指先で直した。

 小春ちゃんは私の顔を見て、何か言いかけ、それから目の前の写真を一枚持ち上げた。

「じゃあ、今は私にもいっぱい見せてくださいね」

「もちろん。褒めてもらえると伸びるタイプなので」

「じゃあ百枚褒めます!」

「それはさすがに伸びすぎて、天井にぶつかっちゃうかも」

 二人で笑う。

 小春ちゃんの優しさは、こういうところにある。聞きたいことを全部聞くのではなく、相手が話したくなるまで待てるところ。

 部活が終わる頃には、窓の外が淡い橙色に染まっていた。