世界でいちばん、君に届かない

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 放課後、写真部の部室へ向かうと、水瀬小春ちゃんが机いっぱいに写真を並べていた。

 部室は校舎の端にある小さな部屋で、古い棚にはアルバムや予備の三脚がぎゅうぎゅうに詰まっている。

「澪先輩、見てください! 昨日の写真、いい感じに撮れたんです!」

「わ、すごい。これ、走ってる子?」

「そうです! 髪がふわってなった瞬間を狙いました」

 写真の中では、知らない女の子が振り向きながら笑っていた。動いている途中の、一秒にも満たない表情。背景は少しぼけているのに、その子の瞳には光が残っていて、前後の笑い声まで聞こえてきそうだった。

 小春ちゃんの写真には、撮られた人がその場を楽しんでいたことまで写っている。誰かを笑わせてから撮るのではなく、笑った瞬間を見逃さない。きっと普段から、人の表情をよく見ているのだろう。

「小春ちゃんって、こういう一瞬を見つけるの上手だよね」

「えへへ。先輩みたいな風景写真も撮ってみたいんですけどね」

「風景は逃げないから、私でも追いつけるの」

「先輩、絶対そういう理由じゃないですよね?」

「ばれた?」

 小春ちゃんは人を撮るのが好きで、私は景色を撮るのが好きだ。

 いつもの通学路。雨上がりの水たまり。誰もいない公園のベンチ。店先で揺れる小さな看板。

 見慣れたものでも、光の向きや季節が違えば、昨日とは少し違う顔を見せる。そんな変化に気づくたび、誰にも見つかっていない宝物を拾ったような気分になった。