世界でいちばん、君に届かない

「……実はね」

 少し迷ってから、私は口を開いた。

「昨日、同じクラスの男の子に告白されたの」

 伊織の足が、ほんの一瞬だけ遅くなった。

「……へえ」

「へえ、って。それだけ?」

「他に何を言えばいいの?」

「もっと驚くとか!」

「澪が告白されたこと?」

「うん!」

「別に、不思議じゃないでしょ」

 予想外の返事に、思わず顔を向けた。

「……え?」

 伊織は前を向いたまま、何でもないことのように続ける。

「澪、昔から人懐っこいし。好きになる奴がいても、おかしくないと思うけど」

「…………」

「何?」

「伊織が私を褒めた……」

「別に褒めてない」

「今の、録音しておけばよかった!」

「次から黙って歩こうかな」

「それは寂しいからやめて」

 伊織は少しだけ笑った。

「それで、返事は?」

 しばらくして、伊織が尋ねた。

「まだだよ。ちゃんと考えたくて」

「そっか」

 彼は相手の名前も、私の気持ちも尋ねなかった。

 住宅街で自転車が通ると、伊織は私を道路の内側に寄せ、ふと口を開いた。

「……澪って、もう昔のことは気にしてないの?」

 足が止まりそうになった。

「……昔?」

「三年前のこと」

 胸の奥が、きゅっと縮んだ。

 春の夕暮れと、見慣れた道。

 隣には、昔からよく知っている幼なじみ。

 それなのに、急に景色が遠くなったような気がした。

「……どうだろう。もう三年も経つしね」

 笑ってみせたつもりだった。