世界でいちばん、君に届かない

 侑芽の目が、眼鏡の向こうで大きくなった。

「…………ええっ!?」

「侑芽! 声!」

 近くの席の子たちが振り向き、私は慌てて笑顔を作った。

「久世くんって、あの久世くん!?」

「うん、あの久世くん」

「ほとんど女子と話さない、あの!?」

「久世くん、何人いる設定なの!?」

 侑芽は口元を押さえ、今度こそ声を潜めた。

「でも、そっか。最近、澪のほうを見てることがあったから」

「えっ、そうなの?」

「澪が笑ってるときとかね。気づかなかった?」

「全然……」

 久世くんの席はまだ空いていた。ほっとしてしまうのは、どんな顔で「おはよう」と言えばいいかわからないからだ。昨日までは、廊下ですれ違えば何の迷いもなく声をかけられたのに。

「返事は?」

「……まだ。急がなくていいって言ってくれた」

「久世くんらしいね」

 侑芽はそれ以上踏み込まず、机の上で曲がったプリントを直してくれた。

「……私、ちゃんと考えたいな」

 そう告げると、侑芽は優しく笑った。

「うん。それがいいと思う」